昨日の地震は、どんな揺れだったのか――2026年8月23日・茨城県南部地震を調べてみた

2026年8月23日の茨城県南部地震で1秒応答が大きかった東京圏のK-NET観測点地図
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昨日の未明、2026年8月23日、茨城県南部を震源とするマグニチュード5.9、深さ約70kmの地震が発生しました。地震動の記録を見る限り、東京圏に大きな建物被害をもたらすほどの揺れではありません。それでも、「どこが、どのように揺れたのか」を調べると、東京圏の地盤の特徴がよく見える地震でした。

そこで、防災科学技術研究所のK-NET・KiK-net計458地点の波形を解析し、J-SHISの浅部・深部地盤情報と国土地理院の地形分類を重ねてみました。調べてみると、軟らかい地盤はやはり揺れていました。ただし、「埋立地だから」という一言では説明できません。

※K-NET・KiK-net:防災科学技術研究所が全国で運用する強震観測網です。K-NETは地表、KiK-netは地表と地中に置かれた地震計で揺れを記録します。
※J-SHIS:同研究所が公開する、地震ハザードと地盤の情報基盤です。

木造住宅や低中層建物に関係する約1秒の応答には、表層30mの軟らかさが明瞭に表れました。一方、高層建物が意識したい4秒側の揺れには、関東平野の地下深くにある堆積層がより強く関係していました。同じ地震でも、建物の高さによって確認すべき情報が違います。

この記事は、一回の地震から土地や建物の安全性を順位づけるものではありません。住宅を建てる、または購入するときに、販売資料やハザードマップの何を追加で確認すればよいのかを読み解くための分析です。

目次

まず、今回の地震はそこまで大きくなかった

今回解析したのは、2026年8月23日02時00分ごろに発生した茨城県南部の地震です。K-NET 268地点、KiK-net 190地点の記録を用い、5%減衰の応答スペクトル、最大速度、継続時間などを計算しました。

※応答スペクトル:同じ地震波を、揺れやすい周期の異なる建物モデルに入力し、それぞれの最大応答を並べた図です。
※5%減衰:建物の揺れが時間とともに小さくなる度合いを、一般的な比較条件として5%にそろえたものです。

震源は約70kmと深く、地震の規模もM5.9です。したがって、浅い首都直下地震や相模トラフ沿いの巨大地震で同じ分布になるとは限りません。また、観測点の数値はその地点の地盤を表すもので、数百m離れた個別敷地まで代表するものではありません。

一方、同じ一つの地震を多数地点で同時に観測したため、震源距離の影響をある程度そろえながら、表層地盤と深部地盤が異なる周期帯にどう表れたかを比較できます。

最大加速度と「建物を揺らす周期」は同じではない

地震の強さは、最大加速度だけでは語れません。今回、水平最大加速度は茂木で約250galと大きく、短い周期の揺れが目立ちました。一方、1秒応答加速度Sa(1.0秒)は川口で0.276g、瑞江で0.204g、砂町で0.202gとなり、東京東部から埼玉南部に大きな地点が集まりました。

※周期:揺れが一往復するまでの時間です。一般に、低い建物ほど短く、高い建物ほど長くなります。
※Sa(応答加速度):ある周期の建物モデルに生じる最大加速度です。
※gal:地面の加速度を表す単位です。980.665galがおよそ1g(重力加速度)に相当します。

最大加速度が大きい場所と、1秒前後で建物を揺らしやすい場所は一致しません。木造住宅や低中層建物を考える場合、PGA(最大加速度)だけでなく、1〜2秒前後の応答も見る必要があります。

※PGA(最大加速度):観測中に地面の加速度が最も大きくなった瞬間の値です。揺れの周期や継続時間までは表しません。

操作地図では、Sa(1.0秒)、4秒PSV、AVS30、Vs=1,400m/s層までの深さを切り替え、観測点をクリックして数値と地形分類を確認できるようにしました。

赤い星が今回の震源です。

赤い星が今回の震源です。色分けを切り替え、観測点を押すと数値と地形分類を確認できます。

地盤を重ねると「埋立地だけ」では説明できない

J-SHISの地形分類ごとに、震源距離から予測されるSa(1.0秒)に対して観測値が何倍だったかを比べました。中央値は埋立地2.82倍、干拓地2.14倍、三角州・海岸低地1.95倍でした。火山灰台地は0.87倍、砂礫質台地は0.39倍です。

低地や埋立地で1秒応答が大きくなる傾向は明瞭です。ただし、最も大きかった川口の観測点は後背湿地に位置します。「埋立地か否か」より、軟弱な表層地盤と厚い堆積層が重なっているかを見る方が実態に近いと言えます。

自然地形地点数AVS30中央値 (m/s)Sa(1.0秒)中央値 (g)距離補正後の倍率4秒PSV中央値 (cm/s)
埋立地71760.1682.824.44
干拓地61550.1362.145.32
三角州・海岸低地61780.1281.954.42
後背湿地62100.0321.441.46
火山灰台地312630.0530.871.77
砂礫質台地84980.0080.390.24
地形分類別のSa1.0秒
箱は四分位範囲、点は各観測点。単一地震の結果であり、土地の恒常的な危険度順位ではありません。

表層30mは1秒応答、深い堆積層は4秒側に表れた

表層地盤の軟らかさを示すAVS30と、震源距離を補正したSa(1.0秒)の順位相関は-0.73でした。AVS30は地表から深さ30mまでの平均S波速度で、値が小さいほど一般に軟らかい地盤です。

※AVS30:地表から深さ30mまでをS波が伝わる平均速度です。一般には、数値が小さいほど軟らかい地盤の目安になります。

これに対し、Vs=1,400m/s層までの深さと4秒PSVの相関は+0.65でした。東京湾岸から東京東部では、地震基盤に近い硬い層まで1,200〜1,600m程度ある地点が多く、長い周期の揺れが相対的に大きくなりました。

※Vs=1,400m/s層:S波が毎秒1,400m程度で伝わる硬い地層です。ここでは、関東平野の深い堆積層の厚さを見る目安にしています。
※PSV(擬似速度応答):建物モデルの最大変位から換算した速度相当の比較指標です。

表層地盤と深部地盤の相関
震源距離による全K-NET地点の対数距離傾向を除いて比較。相関は因果関係を直接証明するものではありません。

この結果は「表層だけ」「深部だけ」の二者択一ではありません。約1秒でも深部地盤との相関はあり、4秒側にも表層の影響は表れます。ただ、建物の高さによって、より強く意識すべき地盤情報が変わることが分かります。

木造戸建てを建てる・買う人が確認したいこと

建築研究所の被害分析では、木造建築物の倒壊被害と1〜2秒前後の地震動との関係が指摘されています。今回の1秒応答の分布は、木造住宅を考えるうえで無視できない情報です。ただし、一つの観測値から個別住宅の被害を判定することはできません。

耐震等級は「数字」ではなく根拠まで確認する

住宅性能表示制度の耐震等級は、等級1が建築基準法レベル、等級2がその1.25倍、等級3が1.5倍の地震力に対して倒壊等を生じにくい水準です。ただし、等級3だから被害が生じないという意味ではありません。

購入・設計時には、住宅性能評価書の有無、どの方法で構造安全性を確認したか、壁量だけでなく偏心や接合部までどう検討したかを確認したいところです。既存住宅なら、建築年、耐震改修、劣化、増改築履歴も重要です。

地盤調査と基礎を、ハザードマップとは別に見る

液状化マップは重要ですが、建物の地震時応答、地盤の支持力、不同沈下は同じ話ではありません。次の項目を分けて確認すると整理しやすくなります。

  • J-SHISや土地条件図で、台地・後背湿地・旧河道・埋立地などの地形を確認する
  • 自治体の液状化、浸水、土砂災害の各ハザードマップを確認する
  • 個別敷地の地盤調査結果と、近隣のボーリング情報を確認する
  • 地盤改良の有無だけでなく、採用理由、改良深さ、品質管理、将来撤去時の扱いを確認する
  • 基礎形式、擁壁、盛土・切土、隣地との高低差を現地で確認する

土地の地形名は、購入をやめるためのラベルではありません。地盤条件に応じて、建物と基礎に何を求めるべきかを考える入口です。

高層マンションを買う人が確認したいこと

高層建物は、低層住宅より長い周期でゆっくり揺れます。今回の4秒PSVは浦安8.37cm/s、瑞江8.12cm/s、川口7.92cm/s、宇喜田6.40cm/s、行徳6.26cm/sの順でした。厚い堆積層を持つ東京湾岸や東京東部、埼玉南部で大きな地点が目立ちます。

周期別の速度応答
PSVは本解析の応答スペクトルから換算した比較指標で、気象庁の絶対速度応答Svaや長周期地震動階級とは異なります。

ここで用いたPSVは、応答加速度から換算した5%減衰の擬似速度です。気象庁が長周期地震動階級に用いる絶対速度応答Svaとは異なるため、今回の数値から階級を判定することはできません。

建物の固有周期と対策を管理資料で確認する

高層マンションでは、地盤の「良い・悪い」だけでなく、建物固有周期と地震動の周期が近づくかが重要です。購入前または管理組合への質問として、次を確認すると実態が見えやすくなります。

※固有周期:建物が最も揺れやすい、その建物固有の周期です。地震動に同じ周期成分が多いと、揺れが大きくなることがあります。

  • 建物の固有周期と、設計時に用いた長周期地震動の考え方
  • 耐震・制震・免震の別と、装置の点検・交換計画
  • 杭・基礎形式、液状化や側方流動への検討
  • エレベーターの地震時管制と復旧手順、非常電源の対象と継続時間
  • 断水時の給水方法、受水槽・高置水槽、排水設備の継続性
  • 高層階の家具固定、共用部の非構造部材、長周期地震動を想定した訓練

国土交通省は2017年4月から、対象区域における60m超の新築建築物などについて、長周期地震動対策を踏まえた大臣認定の運用を強化しています。建築年は確認材料になりますが、古いから直ちに危険、新しいから無条件に安心とは言えません。既存建物で長周期地震動に関する再検証や改修が行われた例もあります。

同じ行徳観測点で、三つの地震を比べる

浦安市に近い市川市のK-NET行徳観測点(CHB029)には、今回の地震、2021年10月7日の千葉県北西部地震、2011年の東北地方太平洋沖地震の記録がそろっています。同じ観測点の波形を同じ方法で再計算することで、地盤条件を固定した比較ができます。

今回と2021年の地震は、ともにM5.9で、深さは約70kmと75km、行徳までの震源距離も79.5kmと77.7kmです。条件はよく似ていますが、応答は同じではありませんでした。

※震源距離:観測点から、地下にある震源までを直線で結んだ距離です。地図上の震央までの距離に、震源の深さを加味します。
※PGV(最大速度):地面が動く速度の最大値です。PGAとは異なる側面から揺れの強さを示します。
※D5–95:地震動のエネルギーが累積5%から95%へ達するまでの時間で、主要な揺れの継続時間を見る指標です。

地震M/深さ震源距離 (km)PGA (gal)PGV (cm/s)D5–95 (秒)1秒PSV (cm/s)4秒PSV (cm/s)
2026年 茨城県南部5.9/70km79.567.89.637.821.76.3
2021年 千葉県北西部5.9/75km77.7179.819.221.528.24.1
2011年 東北地方太平洋沖9.0/24km375.2165.226.088.257.951.2
行徳観測点の三地震比較
K-NET CHB029(行徳)の同一観測点・水平2成分の大きい方を比較。すべて5%減衰のPSVとして同じ手順で計算しました。
グラフを操作して比較する

2021年は、今回よりPGAが約2.7倍、PGVが約2.0倍で、1秒PSVも大きくなりました。一方、今回の地震は主要動の継続時間が長く、4秒PSVは2021年の約1.5倍です。ほぼ同じマグニチュードと震源距離でも、含まれる周期成分は変わります。

2011年は、PGAだけを見ると2021年を下回ります。しかし、継続時間は88.2秒、4秒PSVは51.2cm/sに達しました。最大加速度だけでは、長時間続く揺れや高層建物が意識すべき長周期側の応答を読み切れないことが、同じ観測点の記録から分かります。

違いの原因を一地点の記録だけで特定することはできません。震源の破壊過程、揺れが伝わる方向と経路、関東平野の深い堆積層などが複合していると考えられます。それでも、地盤を固定してなお曲線が大きく変わった事実は、「Mと距離が同じなら同じ揺れになる」とは限らないことを示しています。

昨日の地震を調べて、見えてきたこと

今回の地震は、大きな建物被害をもたらすほどの揺れではありませんでした。しかし、短周期が目立つ茂木、1秒応答が大きい川口・東京東部、4秒応答が大きい東京湾岸という違いが見えました。同じ地震でも、注目する周期によって地図の中心が移ります。東京圏の地盤特性を照らし出した、いわば「探査波」のような地震だったと言えます。

第一に、最大加速度が大きい場所と、建物を大きく揺らす場所は同じとは限りません。震度やPGAだけで住宅への影響を読み切ることはできません。

第二に、東京圏の揺れは「埋立地だけが増幅した」とは言えません。埋立地・干拓地・三角州・海岸低地で1秒応答が大きい傾向はありましたが、最大地点は川口の後背湿地でした。地形名よりも、表層地盤の軟らかさと深い堆積層の組合せを見る必要があります。

第三に、木造戸建てと高層マンションでは重視する周期帯が違います。今回の一地震でも、約1秒と4秒では地盤との関係が変わりました。土地の情報と建物の情報を分けずに確認することが重要です。

ただし、これはM5.9・深さ約70kmの一地震による観測結果です。首都直下地震や相模トラフ沿いの巨大地震に、そのまま置き換えることはできません。土地の危険度順位ではなく、東京圏の地盤が周期ごとに異なる応答を示した実例として読むのが適切です。

住宅を選ぶときは、ハザードマップを一枚見て終わりにするのではなく、次の順で考えると分かりやすくなります。

  1. 敷地はどのような地形・地盤にあるか
  2. その建物はどの周期で揺れやすいか
  3. 構造体・基礎・杭・設備にどのような対策があるか
  4. 地震後に住み続けるための水、電気、エレベーター、修繕体制があるか

「揺れやすい土地」を単純に避けるというより、土地と建物の組み合わせを確認することが重要です。これは、木造戸建てにも高層マンションにも共通します。

解析方法と出典

強震波形は防災科学技術研究所K-NET・KiK-net、浅部・深部地盤はJ-SHIS、人工地形は国土地理院の地形分類を使用しました。SaとPSVは水平2成分の応答スペクトルから計算し、地盤との相関は震源距離による全体傾向を除いたうえで確認しています。

本記事は単一地震の観測記録を用いた比較分析であり、個別敷地・建物の安全性、将来被害、資産価値を判定するものではありません。物件ごとの判断は、設計図書、地盤調査、構造計算、維持管理記録を確認し、必要に応じて建築士・構造設計者・地盤の専門家に相談してください。

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この記事を書いた人

▷一級建築士,建築基準適合判定資格者(建築主事試験),宅地建物取引士,建築物省エネ適合性判定員など
▷建築関連法規や都市計画法規などに関することや、都市計画・公共交通・住宅政策などが得意分野です。
▷コンサルタント依頼はこちらから(https://visasq.co.jp)

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