小売立地・商圏・都市計画のGIS分析
よく知られる「半径10kmに人口50万人」という数字は、現在の店舗にも当てはまるのでしょうか。国内37倉庫店を同じ条件で調べ、人口だけでは見えない立地の特徴を確かめました。
以前、静岡県内へのコストコ出店の可能性について、テレビ局から取材を受けたことがあります。そのときに話題になったのも、「半径10kmに人口50万人」という数字でした。
確かに、分かりやすい目安です。候補地の周りに何人住んでいるかを数えれば、出店の可能性を判断できそうです。ところが、現在の倉庫店を一つずつ調べると、この数字だけでは説明しにくい店が少なくありません。
では、コストコは実際にどのような場所を選んでいるのでしょうか。人口、所得、働く人の数、高速道路、既存店との距離、売場面積、用途地域を順に調べました。対象は、2026年8月28日時点でコストコ日本の公式サイトに掲載されていた37倉庫店です。
先に結論を書くと、「10km圏50万人」は典型的な店舗を捉える目安にはなりますが、出店の可否を分ける絶対条件ではありません。
近くに住む人が少ない店舗ほど、高速道路を使って広い地域から来店でき、別のコストコからも離れていました。さらに、地域の所得や雇用、まとまった土地の有無、都市計画上の建築条件も関係しています。
計算方法、国内37店の全数表、開業前後の用途地域比較、自治体の都市計画対応は、専門資料「コストコ国内37倉庫店の立地条件と都市計画」にまとめています。
数字で語られてきた立地条件
まず、公式情報の扱いを整理しておきます。2020年に筆者がコストコ日本の公式ページを確認した際には、土地条件として、高所得層マーケット、企業が多い地域、敷地面積1万坪以上、建築面積約4,500坪、半径10kmの人口50万人以上、用途地域、駐車場800台以上、車のアクセスなどが掲載されていました。
しかし、2026年8月29日時点では、コストコ日本の現在の公開サイトに、これらの数字を一覧にしたページは確認できませんでした。そのため、以下では「現行の公開された審査基準」ではなく、過去にコストコ日本が公開していた土地条件として扱います。
現在の公式採用ページには、不動産部が市場分析や地域特性を踏まえて立地を選ぶことが記載されています。ただし、どの条件をどのように評価するのかまでは公表されていません。
また、米国の公開環境審査資料に含まれるCostcoの立地条件図には、14~16エーカー(約5.67~6.47ha)、倉庫約15万平方フィート(約1万3,935m²)、駐車場約750台という数字が示されています。日本で過去に公表された条件と数字は似ていますが、同じ基準だったとは限りません。ここでは別の資料として扱います。
立地条件は、全てを機械的に満たせば出店が決まる「公式」ではありません。この記事では、過去に公開された数字を、実店舗と比べるための目安として扱います。
| 観点 | 立地の目安 | 国内実店舗の確認結果 |
|---|---|---|
| 周辺人口 | 10km圏50万人 | 37店の中央値は53.6万人。一方、17店は50万人未満 |
| 所得・雇用 | 高所得層マーケット、企業が多い地域 | 課税所得は37店中34店で全国市区町村の中央値超。ただし高年収世帯割合は全国値とほぼ同じ |
| 広域交通 | 車のアクセスが良い物件 | 35店が最寄りICから直線10km以内、29店が5km以内 |
| 敷地・建築 | 敷地1万坪以上、建築面積約4,500坪 | 大店立地法の売場面積を確認できた31店の中央値は1万226m²。敷地・建築面積とは区別が必要 |
| 用途地域 | 準工業、商業、近隣商業 | 現在の指定では37店中27店がこの3種類に該当 |
| 駐車場 | 800台以上 | 台数を確認できた20店の中央値は770台 |
国内37倉庫店の10km圏人口
国内37倉庫店の周囲10kmに住む人口を、2020年国勢調査の1kmメッシュから計算しました。メッシュとは、統計を一定の大きさの格子に分けたデータです。市区町村の境界に左右されず、店舗から同じ距離の人口を比べられます。
10km圏人口の中央値は約53.6万人でした。中央値は、小さい順に並べたときの真ん中の値です。「50万人」という数字は、国内の典型的な店舗を捉えるにはかなり良い数字です。
ただし、50万人以上は20店、50万人未満は17店でした。東近江は約13.8万人、木更津は約17.7万人、中部空港は約20.4万人、ひたちなかは約26.5万人です。現在の店舗の半数近くが外れることから、出店を切り分ける絶対的な線とは言えません。
10km圏人口中央値
50万人以上
50万人未満
国内37倉庫店の一覧(地域順)
- 1石狩
- 2札幌
- 3富谷
- 4かみのやま
- 5射水
- 6野々市
- 7壬生
- 8ひたちなか
- 9前橋
- 10群馬明和
- 11つくば
- 12新三郷
- 13入間
- 14千葉ニュータウン
- 15幕張
- 16南アルプス
- 17多摩境
- 18川崎
- 19座間
- 20木更津
- 21金沢シーサイド
- 22岐阜羽島
- 23守山
- 24東近江
- 25中部空港
- 26京都八幡
- 27尼崎
- 28門真
- 29浜松
- 30神戸
- 31和泉
- 32広島
- 33北九州
- 34久山
- 35小郡
- 36熊本御船
- 37沖縄南城
近距離人口を補う広域商圏
それでは、10km圏の人口が少ない店舗は、どこから客を集めているのでしょうか。まず範囲を20kmまで広げると、10km圏で50万人に届かなかった17店のうち15店が50万人を超え、8店が100万人を超えます。
20kmという距離に、コストコ独自の基準や法的な意味があるわけではありません。ただし、国土交通省の参考資料によると、2021年の乗用車の1日当たり走行距離は平日平均20km、休日平均28kmでした。そこで、いきなり30kmまで広げるのではなく、日常の自動車移動に比較的近い20kmを先に確認しました。
さらに30kmまで広げると、17店すべてが50万人を超え、13店が100万人を超えます。多くの店舗は20kmまでで人口規模を説明できますが、木更津のように、より広い地域とのつながりを見なければ理解しにくい店舗も残ります。
10km圏50万人未満の主な倉庫店
単位:万人。背景色は50万人、100万人の超過を示します。
| 倉庫店 | 10km | 20km | 30km |
|---|---|---|---|
| 東近江 | 13.8 | 53.0 | 107.0 |
| ひたちなか | 26.5 | 68.4 | 92.0 |
| 南アルプス | 35.1 | 53.0 | 64.8 |
| 中部空港 | 20.4 | 87.1 | 338.0 |
| 木更津 | 17.7 | 47.3 | 663.3 |
| 千葉ニュータウン | 42.6 | 360.9 | 777.9 |
図2 圏域は直線距離によるGIS概算です。木更津の20km圏は50万人をわずかに下回り、30km圏で大きく増えます。
もっとも、30km圏といっても、その全員が同じ時間で来られるわけではありません。山、海、河川、道路網によって、実際の行きやすさは大きく変わります。そこで、次に現在の道路網を用いた道路時間圏を計算しました。
道路時間圏とは、店舗から車で30分、45分、60分で到達できる範囲です。国内37店の中央値は、30分圏で約109万人、45分圏で約286万人、60分圏で約569万人でした。
道路時間圏人口の中央値
国内37店、単位:万人
図3 現在の道路グラフによるモデル値で、実測の渋滞や料金抵抗は反映していません。
コストコは、毎日の食品を歩いて買いに行く店とは違います。会員制で、一度にまとめて買い、車で持ち帰る業態です。そのため、近距離の人口密度より、一定時間内に車で訪れられる人口が重要になる地域があります。
広域集客を支える高速道路アクセス
国内37店のうち、最寄りのICまたはスマートICから直線3km以内は24店、5km以内は29店、10km以内は35店でした。最寄りICまでの距離の中央値は約1.80kmです。これは「10km圏50万人」よりも、多くの店に共通する特徴でした。
最寄りIC・スマートICからの直線距離
国内37店の累計店舗数
図4 入口までの実走距離、右左折、一般道の混雑は反映していません。
ただし、高速道路に近ければ出店できるわけではありません。全国には、ICの近くにあり、周囲に人口や所得があっても、コストコがない都市圏がいくつもあります。ICへの近さは広域から来店しやすくする条件の一つであり、それだけで市場が成立するわけではありません。
既存店との間隔
店舗の周りに人が多いかだけでなく、近くに別のコストコがあるかも重要です。既存店のすぐ近くに新しい店を置けば、同じ地域の客を二つの店舗で分けることになります。
10km圏人口が50万人以上の20店は、最寄りの別のコストコまでの距離が中央値約25.4kmでした。50万人未満の17店では約44.3kmです。近くの人口が少ない店ほど、より広い地域を受け持つ位置にありました。
最寄りの別のコストコまでの距離
各群の中央値、直線距離
図5 10km圏人口が少ない店舗ほど、別のコストコまでの間隔が広い傾向。
この差を見ると、「この町は50万人に届かないから無理」とも、「50万人を超えたから来る」とも言えません。その場所が、現在の店舗網の中でどの地域を受け持てるのかまで確かめる必要があります。
所得と雇用から見た立地
コストコが立地する市区町村の、納税者1人当たり課税所得の中央値は341.4万円でした。全国市区町村の中央値297.6万円を上回り、37店中34店が全国中央値より高い自治体にありました。10km圏人口が50万人未満の17店に限っても14店が全国中央値を上回ります。
ただし、この課税所得は世帯年収そのものではありません。非課税者を含む地域全体の生活水準を、そのまま表す数字でもありません。年収700万円以上の世帯割合で見ると、倉庫店所在自治体の中央値19.68%は全国値19.82%とほぼ同じでした。これだけで「富裕層の街を選んでいる」とは言えません。
過去の立地条件との照合
課税所得は所在市区町村、従業者数は店舗10km圏の集計
図6 所得はおおむね過去の条件と整合しますが、高年収世帯の多さだけでは説明できません。
夜に住んでいる人だけでなく、昼間に働く人が集まる地域もあります。10km圏の従業者数は、50万人以上の店で中央値約48.4万人、50万人未満の店で約13.5万人でした。
ただし、人口と従業者数の相関は0.93と高く、「企業が多い」ことだけを別の立地条件とは考えにくい結果です。ひたちなか、つくば、木更津などは、住民の数に加えて、雇用や所得、道路でつながる範囲まで見ると立地の特徴が分かりやすくなります。
約1万m²にそろう売場規模
大規模小売店舗立地法の届出を、都道府県の公開資料から確認しました。店舗面積を確認できた31店の中央値は1万226m²です。大半はおおむね9,500~1万1,000m²の間に集まりました。
公開届出で確認できた店舗面積
図7 都道府県の大規模小売店舗立地法届出。この「店舗面積」は、建築基準法上の延べ面積や敷地面積とは異なります。
コストコは、どの地域でもまったく同じ規模ではありません。それでも、売場の大きさは比較的そろっています。土地の広さに合わせて小型店を出すのではなく、倉庫店に必要な規模を確保できる場所を選んでいると読めます。
売場のほかに、駐車場、荷さばき場、構内道路、ガスステーション、緑地、雨水処理施設も必要です。周辺人口が条件を満たしていても、これらをまとめて配置できる数haの土地がなければ、具体的な計画には進みません。
1万m²を境に変わる用途制限
この「1万m²前後」は、倉庫店の規格だけではなく、都市計画と建築基準法を考える上でも大きな境目です。国の資料でいう「床面積1万m²を超える大規模集客施設」は、原則として近隣商業地域、商業地域、準工業地域の3種類に立地が限られます。
| 店舗等の床面積 | 国の用途制限で原則として立地可能な地域 | 読み方 |
|---|---|---|
| 3,000m²超~1万m²以下 | 第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、用途地域の指定のない区域 | 1万m²以下なら、選択肢は比較的広い |
| 1万m²超 | 近隣商業地域、商業地域、準工業地域 | 第二種住居、準住居、工業、非線引き白地などでは、そのままでは立地できない |
これは建築基準法別表第2の概要です。特別用途地区、地区計画、特定用途制限地域、開発許可などによる上乗せ・調整があります。用途地域だけで個別計画の建築可否を判定できるものではありません。
準工業地域を中心とする土地利用
国内37倉庫店の現在の用途地域を、国土数値情報の都市計画決定情報で調べました。用途地域とは、住宅、店舗、工場などの混在を調整するため、建てられる建築物の種類や規模を地域ごとに定める制度です。
最も多かったのは準工業地域の22店でした。準工業地域は、工場を受け止めつつ、商業施設や住宅も比較的広く建てられる地域です。大きな土地、幹線道路、物流との相性の良さが、実際の立地数にも表れています。
現在の用途地域
店舗位置と2024年度の都市計画決定情報による判定
図8 現在の店舗位置による機械的な判定であり、開業時の指定や個別の特例を示すものではありません。
ここで注意したいのは、現在の用途地域だけでは、出店までの経緯は分からないことです。そこで、まず過年度の用途地域から変化の可能性がある店舗を抽出し、候補地については開業日から2~3年前を中心に、新旧の都市計画図、決定告示、都市計画審議会、議会会議録まで遡りました。
過年度用途地域による全国スクリーニング
最初の手掛かりには、国土数値情報の2011年版と2019年版の用途地域を使いました。2011年より後に開業し、開業前のスナップショットと比べられたのは25店です。2012~2019年開業の14店には2011年版、2020年以降に開業した11店には2019年版を対応させ、店舗地点と周囲50mをQGISで照合しました。
開業前の用途地域との照合
比較可能だった25店の内部スクリーニング
図9 変化候補は、過年度の店舗地点に用途地域がなく現在は指定されている6店と、用途の違いを検出した1店です。GISによる候補抽出であり、変更理由の確定ではありません。
候補として浮かんだのは、岐阜羽島、野々市、かみのやま、富谷、熊本御船、群馬明和、沖縄南城の7店でした。ただし、過年度データの「作成年度」は、その年の同じ一日に全国を撮影した記録ではありません。元になった自治体の都市計画総括図は、それ以前に作られたものを含みます。また、店舗点が用途地域の境界に近い場合は、数十mの位置の違いで判定が変わります。
このため、7店を自治体の都市計画決定告示、審議会資料、議会会議録、新旧の都市計画図で再確認しました。4店ではコストコまたは大規模集客施設の立地を可能にする制度変更を直接確認でき、3店では行政が大規模商業施設を受け止められる土地を先に整えていました。
| 倉庫店 | 一次資料で確認した土地利用の変化 | 読み方 |
|---|---|---|
| かみのやま | 準工業地域・大規模集客施設制限 → 近隣商業地域 | コストコ誘致対象地の変更を直接確認 |
| 富谷 | 市街化調整区域 → 市街化区域・準工業地域 | 進出企業の用途に合わせた指定を直接確認 |
| 熊本御船 | 非線引き白地 → 約11haの準工業地域 | コストコ誘致に伴う見直しを直接確認 |
| 群馬明和 | 市街化調整区域 → 市街化区域・準工業地域・地区計画 | 区域編入と公的造成を直接確認 |
| 岐阜羽島 | 調整区域の地区計画 → 開業後に市街化区域・準工業地域 | 企業誘致は確認、用途変更の個別因果は未確認 |
| 野々市 | 市街化調整区域・農地等 → 市街化区域・準工業地域 | 商業地の受け皿整備が先行 |
| 沖縄南城 | 非線引き白地 → 近隣商業地域等・地区計画 | IC周辺の商業・業務拠点整備が先行 |
2011年版の用途地域データは利用条件が非商用のため、この記事の図表として再配布せず、変更候補を探す内部作業に限りました。上表の記載は、自治体が公開する一次資料で改めて確認した内容です。
用途地域が同じだった15店についても、行政対応がなかったとは限りません。東近江は2019年時点ですでに近隣商業地域でしたが、それ以前に市街化区域への編入と地区計画の決定が行われています。小郡や南アルプスのように、用途地域を変えず、地区計画によって大規模集客施設を建てられるようにした店舗もあります。新旧の用途地域比較だけではなく、区域区分と地区計画まで確認する必要があります。
開業前の都市計画に見える行政対応
優先的に調べた10事例のうち6事例で、コストコまたは大規模集客施設の立地を可能にする制度変更・誘致対応が一次資料に直接記載されていました。
残る4事例の岐阜羽島、野々市、沖縄南城、東近江でも、開業前に大規模商業施設を受け止められる土地利用制度や基盤が整えられていました。ただし、決定時点の資料にコストコの名前を確認できないため、「コストコのために変更した」とは書きません。
国土交通省の調査でも、2006年のまちづくり三法改正後、いったん立地が制限された場所を、用途地域の変更や市街化区域編入によって立地可能にした事例が整理されています。コストコの立地は、企業が土地を選ぶだけではなく、行政が「建てられる土地」を制度と基盤の両面からつくる過程と重なることがあります。
この10事例は、37店から無作為に選んだものではなく、変更の可能性が高い店を優先したケーススタディです。「国内店のうち6店だけ」や「全国の何割」とは読めません。
日本と米国で異なる商圏の尺度
コストコの本場である米国の通常型622倉庫店も、同じ方法で比べました。米国の人口と所得には、2020~2024年の調査結果を統合した「2024年ACS(American Community Survey)5年推計」を使用しています。周囲10kmの人口中央値は約24.2万人で、50万人以上の店は13.8%でした。日本と同じ10kmで見ると、米国の店はずっと低密度な場所にあります。
しかし、範囲を10mile(約16.1km)まで広げると、人口中央値は約51.8万人になります。「50万人」という数字は同じでも、日本の10kmと米国の10mileでは、商圏の大きさが違います。
日本と米国の周囲人口
人口中央値/50万人以上の倉庫店割合
図10 米国人口は2024年ACS 5年推計。
日本では比較的狭い範囲に人が集まり、米国ではより広い自動車商圏を取ります。倉庫店の形が似ていても、その背後にある都市の密度、道路のつくられ方、日常の移動距離は異なります。日本の候補地を米国の数字だけで判断するのが難しい理由です。
それぞれの国内水準を上回る所得
所得については、日米の統計の定義が異なるため、金額をそのまま比べるのではなく、それぞれの国内水準に対して高いか低いかを見ました。日本37店の立地市町村における納税義務者1人当たり所得の中央値は341.4万円で、全国市町村の中央値297.6万円を14.7%上回りました。37店中34店が全国中央値以上です。
米国622店では、10km圏の世帯所得中央値が93,980ドルでした。2024年ACSの全米世帯所得中央値80,734ドルに対して16.4%高く、622店中460店、約74%が全米水準を上回ります。
倉庫店周辺の所得と国内水準
日米で定義が異なるため、国内中央値との差を比較
37店中34店が全国中央値以上
622店中460店が全米中央値以上
図11 日本は立地市町村の納税義務者1人当たり所得、米国は店舗10km圏の世帯所得中央値です。所得の定義と圏域が異なるため、金額同士の直接比較はできません。
人口の取り方は日米で異なりますが、所得はどちらも、その国の標準よりやや高い地域に立地する傾向があります。とはいえ、富裕層だけを狙う立地とまでは言えません。会員制のまとめ買いを続けられる購買力が、人口、車での到達性、広い敷地と組み合わさっている、と読むのが自然です。
実店舗から見える三つの立地像
ここまでの数字を一度まとめると、国内の倉庫店は、おおむね三つの立地の見方で整理できます。これはコストコの公式分類ではなく、今回の分析から読み取った目安です。
高密度都市圏型
川崎、尼崎、幕張、新三郷などは、10km圏だけで多くの人口を抱えています。その一方で、まとまった土地は限られ、交通渋滞も生じやすい地域です。限られた敷地の使い方と、周辺道路への負担が主な課題になります。
地方都市広域集客型
東近江、ひたちなか、小郡、南アルプスなどは、10km圏人口だけでは大都市圏の店舗に届きません。しかし、ICに近く、30~60分圏まで広げると人口が増え、既存店からも離れています。一つの市だけではなく、複数の市町村や県境を越えた地域から客を集める立地です。
計画開発型
千葉ニュータウン、中部空港、木更津などは、土地区画整理、大規模商業地、幹線道路、新しい都市基盤と結びついています。現在の人口だけでなく、将来の開発、周辺の商業集積、車での入りやすさ、大きな土地を一体的に使えるかどうかが大きく働きます。
旧立地基準と国内37倉庫店の現在地
かつて公表されていた立地条件は、今も候補地を考えるときの出発点になります。ただし、国内37倉庫店を照らし合わせると、各項目を一つずつ合否判定に使うより、複数の条件が互いに補い合うものとして読む方が、実際の立地をよく説明できます。
目安として残る10km圏50万人
10km圏人口の中央値は53.6万人で、旧基準の50万人に近い結果でした。この数字は、典型的な倉庫店の近距離市場を捉える目安といえそうです。
ただし、50万人未満も17店あります。これらの店舗では、20km圏や道路30~60分圏まで広げた人口、既存店との距離、高速道路への近さが、近距離人口の少なさを補っていました。50万人は有力な目安ですが、出店可能性を切り分ける境界線ではありません。
所得と雇用の位置付け
「高所得層マーケット」については、立地市町村の所得中央値が全国市町村の中央値を14.7%上回り、37店中34店が全国中央値以上でした。米国でも店舗10km圏の世帯所得中央値は全米水準を16.4%上回ります。ただし、日本の高年収世帯割合は全国値と大差がありません。富裕層が特に多い地域というより、会員制のまとめ買いを続けられる所得水準の地域を選ぶ傾向がある、と考える方が実態に近そうです。
「企業が多い地域」は、働く人の数で一定の説明ができます。ただし、10km圏人口と従業者数の相関は0.93と高く、雇用だけが独立して立地を決めているわけではありません。ひたちなかやつくばのように、近距離人口が50万人に届かなくても雇用集積がある地域では、雇用が商圏を補う要素になっています。
ほぼ共通する自動車アクセス
「車のアクセス」は、旧基準の中で最も広く当てはまる条件でした。37店中35店が最寄りICから直線10km以内、29店が5km以内です。ただし、ICに近いだけでは足りません。広い範囲から店舗まで到達できる道路網、出入口を処理できる周辺道路、既存店と商圏を分けられる距離まで含めて、はじめて集客条件になります。
大きく変わらない店舗規模と駐車場
旧基準の「敷地1万坪以上」「建築面積約4,500坪」は、全国一律に比較できる公開資料が少なく、今回の分析だけで達成率は出せません。ただし、大規模小売店舗立地法の届出で売場面積を確認できた31店は、中央値が1万226m²でした。売場面積と敷地・建築面積は別の数字ですが、倉庫店として必要な売場規模は、立地する都市が変わっても大きくは変わりません。
駐車場は、確認できた20店の中央値が770台で、旧基準の800台に近い結果でした。店舗規模と駐車場はおおむね共通する一方、複合施設との共用、立体化、公共交通の条件によって差があります。人口条件よりも、実際に必要な建物、駐車場、荷さばき場を一体で収められる土地があるかどうかが先に問われます。
用途地域の名称より重要な立地までの過程
現在の用途地域では、37店中27店が旧基準に挙げられていた準工業地域、商業地域、近隣商業地域にあります。ただし、現在の指定だけを見ると、行政が立地前にどのような対応をしたのかが抜け落ちます。
今回遡って確認した事例には、市街化調整区域からの編入、非線引き白地への用途地域指定、大規模集客施設を建てられるようにするための用途変更がありました。コストコが建てられる土地は、初めから存在するだけでなく、都市計画の手続きを経て用意されることがあります。
旧立地基準は、現在も候補地をふるいにかける最初のチェックリストとしては有効です。
ただし、実際の倉庫店は「10km圏50万人を満たす土地」の一種類ではありません。近距離に多くの人口がいる都市型、ICを使って広い地域から客を集める地方都市型、都市計画と基盤整備によって大規模店舗を建てられる土地を用意した計画開発型があります。所得、雇用、道路、既存店との間隔、敷地、建築可能性を順に確かめると、それぞれの立地の違いを説明できます。
自治体が誘致を考える場合も、人口50万人という数字を示すだけでは十分ではありません。土地をまとめ、周辺道路が来店車を処理できるかを確かめ、必要な規模の店舗を建てられる都市計画上の条件を整える必要があります。さらに、開業後の交通や既存商業への影響まで説明できれば、企業が候補地を検討するための材料になります。もちろん、ここまで整えても出店が保証されるわけではありません。
分析条件と全店データを確認したい方へ
専門資料では、国内37店と米国622店の指標定義、道路時間圏、所得、店舗面積、過年度用途地域、都市計画の直接事例まで掲載しています。印刷・PDF保存にも対応しています。
主な資料
- コストコ日本「倉庫店検索」
- コストコ日本「部門とキャリア」
- 総務省統計局「令和2年国勢調査」、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」
- 総務省「市町村税課税状況等の調」、総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
- 国土交通省「都市計画決定情報データ(A55、2024年度)」、高速道路のIC・道路網データ
- 国土交通省「国土数値情報 用途地域データ(A29、2011年度・2019年度)」(過年度比較は内部スクリーニングに限定)
- 国土交通省「車の使い方に関する参考情報」
- 国土交通省「用途地域による建築物の用途制限(法別表2)」
- 国土交通省「平成18年まちづくり三法改正前後の大規模集客施設の立地に係る状況」
- 都道府県の大規模小売店舗立地法届出・店舗名簿
- U.S. Census Bureau「2024 ACS 5-year estimates, B19013」
- 国土地理院「地理院タイル一覧」
- California CEQAnet公開資料に含まれるCostco Site Requirement Exhibit
人口圏は国勢調査1kmメッシュの面積按分または中心点方式による概算です。道路時間圏は現在の道路グラフを用いたモデル値で、実測渋滞や実来店者を示すものではありません。統計上の実測値、公的資料で確認した事実、GISによる概算は区分して記載しています。

