常磐線をもっと便利に。地図と時刻表で考える5つの改善案と復興への役割

浜通りの田園を走る特急ひたち・E657系を描いたイメージイラスト。実在の地点を再現したものではありません。
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常磐線のこれからを、地図と時刻表から考える

国の2027年度概算要求に、常磐線のアクセス改善を調べる費用として4,300万円が盛り込まれました。2023年4月に設立された福島国際研究教育機構(F-REI)の施設整備を見据えた調査です。浜通りで暮らす人にとっても、気になる動きではないでしょうか。

いわきから北へ、特急がもう少し増えたら。駅で待つ時間が短くなったら。仙台方面への乗り継ぎがうまくつながったら。「便利になる」といっても、思い浮かべる場面はいくつもあります。どこを変えると、誰の移動がどれくらい楽になるのでしょう。

気になったので、地図上で距離や位置関係を調べられるソフト「QGIS(キュージーアイエス)」で沿線を眺め、時刻表で列車の所要時間や接続を確認しました。そのうえで、高速化や待ち時間の短縮によって、移動時間と便益がどれくらい変わるのかを試算してみました。最初は最高速度を上げればよいのでは、と考えていたのですが、列車ごとの時刻を追うと、駅での待ち時間や乗り継ぎが思いのほか効いてきます。

便益の計算方法は、国土交通省の「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル(2012年改訂版、2025年3月一部変更)」を参考にしました。利用者が短縮できる時間を金額に換算し、将来分を現在価値に直す考え方です。ただし、利用人数や速度などは比較のために置いた仮定で、国やJR東日本による正式な事業評価ではありません。

速く走る効果と、待たずに済む効果

原ノ町―鹿島を例に、利用人数と短縮時間を仮定して計算すると、年間の時間便益は約243万〜1,825万円になりました。時間便益とは、利用者が節約できた時間を金額に換算したもの。鉄道会社の収入とは別の数字です。

今回の短い区間の試算では、高速化による早着は一人当たり数秒〜数十秒。そこへ、対向列車を待つ時間や乗り継ぎ時間を短くする仮定を加えました。同じ「早く着く」でも、どの時間を減らすかで結果が変わります。

工事費も仮定し、便益を費用で割る「B/C(費用便益比)」で比べると、平常時の5ケースは約0.14〜0.24でした。1が便益と費用の釣り合う境目です。災害時の代替輸送まで含めても、1を超えたのは、長期の支障と多くの利用を見込む条件でした。後半では、その条件がどれほど厳しいかも確かめます。

以下の120km/h化や接続改善は、「こんな改善ができたら」という仮定です。表や式も出てきますが、まずは地図と気になるケースから読んでもらえればと思います。計算の条件は、詳しく確かめたい方のために載せています。

目次

概算要求に載った「常磐線アクセス改善調査」

国土交通省鉄道局の2027年度(令和9年度)予算概算要求には、復興庁予算として国費43百万円の「常磐線アクセス改善調査事業」が新たに載りました。概算要求資料の21頁では、F-REIは2023年4月に創設され、2030年度までの施設全体の順次供用を目指すと説明されています。機構そのものはすでに設立されており、今回の交通調査は、その施設整備も見据えて行うものです。具体的には、復興庁などと連携して常磐線のアクセス改善策を調査・検討するとしています。

公表資料から確認できることまだ決まっていないこと
2027年度概算要求に調査事業を新規計上予算が政府案・国会審議を経て成立するか
要求額は国費43百万円工事費、工事区間、完成時期
F-REIを見据えたアクセス改善策を調査増発・高速化・交換設備・接続改善のどれを採るか
復興庁などと連携して検討JR東日本、国、自治体の費用分担

4,300万円は工事費ではなく、調査の要求額です。「4,300万円で線路を高速化する」という意味ではありません。概算要求は、各省庁が翌年度に必要と考える予算を財務省へ求める段階で、事業採択や工事着手の決定とも違います。

9月1日の復興大臣会見では、記者が「本数を増やすことも考えるのか」と質問し、大臣は、そうした内容も含めて関係者と調整すると答えました。ただし詳細は未定です。同じ鉄道局資料には全国施策として「在来線の高速化」も載っていますが、それがそのまま常磐線120km/h化を指すとは読めません。アクセス改善の検討では、速度向上に加え、交換待ちや乗り継ぎの改善も候補になります。

地図と時刻表から考える改善の着眼点

知りたいのは、「どこを変えるか」「何分早く着くか」「何人が便利になるか」の三つです。まずは地図で場所を探し、時刻表で待ち時間を確かめるところから始めました。

QGISどこを調べるか国土数値情報の鉄道路線と駅を地図に重ね、候補区間の長さや位置関係を確認します。
Excel何秒・何円になるか速度、加速度、利用人数、時間価値などの仮定を変え、短縮時間と便益を比較します。
時刻表目的地に早く着けるか駅間の所要時間が短くなっても、その分だけ交換待ちが増えれば、到着時刻は変わりません。列車ごとの到着・出発時刻を確認します。

今回QGISに読み込んだ国の鉄道データで分かるのは、主に線路と駅の位置です。線路の状態や実際の制限速度は分かりません。時刻表も分単位の表示なので、秒単位の短縮時間を求めるには、走行速度や加減速の条件を仮定する必要があります。その条件を明記したうえで、Excelと計算プログラムで短縮時間を求めています。

この記事の読み方
地図の色付き区間は、この記事で検討する候補です。決まった工事計画ではありません。また、便益が1億円と出ても、鉄道会社の利益が1億円増えるという意味ではありません。この違いは、後ほど説明します。

いわき―原ノ町の地図で気になった4区間

まず、いわき―原ノ町の全体像です。2025年の国土数値情報「鉄道データ」から常磐線と駅を抽出し、2026年9月の公開時刻表で駅間時分を見ながら、調査候補を色分けしました。

QGISで作成した常磐線いわき―原ノ町の部分改良候補図
図1 いわき―原ノ町の部分改良候補。A〜Dは本文の比較表に対応します。公開時刻表と線路の位置から調べる候補を絞った図で、実際の速度制限を示すものではありません。鉄道・行政区域:国土交通省「国土数値情報」。

地図上では、いわき―久ノ浜、小高―原ノ町などが比較的長い区間として目に留まります。GISで測ったいわき―原ノ町は78.707kmでした。営業キロ77.5kmより約1.2km長く、これはデータの線形と営業キロの定義・精度が同じではないためです。今回は距離の比較に使い、工事数量や営業キロへそのまま読み替えていません。

地図上の候補GIS上の長さ検討した理由この地図だけでは分からないこと
A いわき―久ノ浜約14.6km既存複線区間を含み、いわき側の列車本数にも関係曲線・分岐器・踏切・信号の速度条件
B 末続―木戸約11.5km駅間時分と既存複線区間の組合せを比較列車交換や追越しに与える実際の効果
C 富岡―双葉約15.9km単線部の占有時間短縮と非常時増発を検討全列車・貨物・保守を含む線路容量
D 小高―原ノ町約9.4km原ノ町側の接続と区間時分を比較駅の進路条件と実際の速度制限

一本の線路を上下方向の列車で共用する「単線区間」では、対向列車と行き違える駅の位置も気になります。この行き違いを鉄道では「列車交換」と呼び、相手を待つ時間が「交換待ち」です。交換設備を増やす効果を見るには、一本だけを早めるのではなく、周りの列車も含めて時刻を組み直す必要があります。まずは地図で調べたい場所を絞り、時刻表で待ち時間の生まれ方を見ていきましょう。

この4区間は、いわき―原ノ町で調べたい場所の候補です。一方、以下の5ケースで計算するのは、地図の北端・原ノ町からさらに一駅北へ進んだ鹿島までの約7.48km。4区間の順位付けとは別に、短い駅間で高速化と交換待ちの関係を詳しく見るために選びました。地図に載る4区間と、これから比べる5ケースは別のものです。

原ノ町
鹿島

赤は仮の120km/h区間。実際の施工位置を示す図ではありません。

同じ区間で17分と28分―時刻表に見える11分の差

原ノ町―鹿島を含む原ノ町―相馬で、普通列車46本と特急ひたち21号の到着・出発時刻を調べました。気になったのは、相馬を20時12分に出る原ノ町行きの普通列車です。以下では、時刻表上の列車番号「260M」で呼びます。時刻は2026年9月8日を基準に確認しました。

相馬20:12発
日立木(にったき)20:17着
20:20発
鹿島20:26着
20:34発
原ノ町20:40着

260Mは相馬から原ノ町まで28分かかります。相馬を12時42分に出る昼の普通列車「238M」は17分です。最初は「11分も交換待ちを減らせるのでは」と考えたくなりました。しかし、駅間を走る時間と駅に停車する時間を分けると、差の内訳が分かります。

列車相馬→原ノ町駅間を走る時間の合計日立木・鹿島の停車合計
238M17分15分2分
260M28分17分11分
差11分2分9分

11分差のうち、駅間時分の差は2分、途中停車の差は9分でした。ただし9分を全部削れるとは限りません。260Mと反対方向に、265Mや特急ひたち21号が走ります。ひたち21号は原ノ町20:27発、相馬20:42発ですが、鹿島・日立木の通過時刻は旅客向け時刻表に載っていません。

仮に260Mを鹿島から早く出しても、単線区間で対向列車と行き違えなければなりません。行き違う場所を原ノ町へ移せば、今度は特急や後続列車の時刻が動きます。さらに、駅へ二つの列車を同時に入れられるかも設備次第です。停車位置を行き過ぎた場合に他の列車とぶつからないか、といった条件が関係します。こうした進路と信号の安全確保は、後半の技術解説で触れます。

少し専門的な表し方:到着時刻を決める最大値

260Mの原ノ町到着は、簡単には max(普通列車自身の準備完了、対向列車による進路制約、その他の制約)+最後の駅間時分 と考えられます。

普通列車だけ2分早く鹿島へ着いても、対向列車の通過を待つ必要があれば、出発時刻は変わりません。対向特急も早く到達し、進路が早く解放され、最後の駅間も短くなって初めて、効果が足し合わされます。このため5ケースでは、高速化による効果を計算したうえで、交換待ちの短縮による追加効果を仮定しました。

100km/hから120km/hへの高速化による短縮時間

今回の比較条件を120km/hとした考え方

ここで、「なぜ120km/hなのか」という説明もしておきます。今回比べたいのは、仮に100km/hで走る区間の一部を、120km/hで走れるようにした場合の効果です。同じ速度条件で改良する長さを変え、交換待ちや乗り継ぎを改善する場合とも比べました。110km/hや130km/hの案まで比較して、120km/hが最もよいと判断したわけではありません。

特急「ひたち」のE657系は、JR東日本の車両紹介では最高速度130km/hです。ただし、車両の最高速度、その区間で認められる運転速度、線路や構造物の設計条件は別の話です。日立―いわきについても「120km/hで設計されている」と確認できる公表一次資料は、今回見つけられていません。いわき以北で120km/h運転が可能かどうかは、その区間の設備条件を調べて判断する必要があります。

原ノ町―鹿島の約7.48kmで、速度の上限を100km/hから120km/hに変えるとします。改良する長さは2km、5km、駅間全体の三通り。実際の速度制限を再現した計算ではありませんが、長さによる効果の違いを比べられます。

5ケースの計算に使う条件
黄色の欄は比較のために置いた仮定です。単純な加減速計算による短縮時間を使います。
項目入力値どういう意味?
改良前 → 改良後の速度上限100 → 120km/h実際の速度台帳に基づく値ではなく、比較条件
改良する長さ2km/5km/約7.48km短い区間と駅間全体を比較
加速度/減速度0.55/0.65m/s²速度が増える速さ/減る速さを一定と仮定
短縮のうち目的地まで残る割合普通75%/特急50%途中で待ち直す分などを差し引く想定
対象となる利用人数普通1,000人/特急200人・各1日その区間を利用する別々の旅客移動。実測値ではない
時間の金額換算1人1分につき45円全ケース共通の比較用単価
積み上げる期間年365日/30年間人数と効果が毎年一定と仮定。将来分は年4%で割引

普通列車は両端の駅で停車し、特急は片側の駅から発車してもう一方を通過する条件です。部分改良では、その範囲の外へ出ると100km/hへ戻します。全長改良の特急は、終端を120km/hで通過する条件にしています。先の区間でもその速度で走れるかは別途確認が必要です。

表の「普通75%・特急50%」は、少し説明が要る数字ですね。駅間で短くなった時間のうち、目的地への早い到着につながる分を、この割合で仮定しました。実測値でも、国の指定値でもありません。特急の割合を低くしたのも今回の比較条件で、特急の方が必ず効果を失いやすいという意味ではありません。実際には、列車ごとの待ち時間や接続を調べて求める部分です。

1kmにつき6秒の差と、加減速による影響

1 距離と速度定速なら距離÷速度で所要時間を求める
2 加速と減速駅を出てすぐ120km/hにはならない
3 目的地までの短縮時間途中の待ち時間が増える分を差し引く
4 利用者便益人数×到着短縮×時間価値を積算する

100km/hは1kmを36秒、120km/hは30秒で走ります。定速だけなら1km当たり6秒の差です。ただし部分改良では、区間に入って加速し、出る前に再び100km/hへ落とす必要があります。今回の単純モデルでは、5km改良の普通列車は約28.4秒の短縮。さらに、その75%だけが目的地到着まで残ると置き、便益計算では約21.3秒を使いました。

1日の時間便益 = 人数 × 目的地までの短縮時間(分)× 45円
普通・特急など、利用者のグループごとに計算して合計します。

「最高速度が20km/h上がるから、所要時間も2割短くなる」という計算にはなりません。停車、加減速、曲線、信号、列車交換があるからです。むしろ、駅間で短縮した時間が、目的地への早い到着につながるかを確かめることが重要です。

高速化・待ち時間・乗り継ぎを変えた5ケース

数秒早く着くと聞いても、あまり変わらないように感じるかもしれません。では、それを毎日使う人の分まで数えたらどうなるか。高速化する長さを変えた三つのケースに、交換待ちと乗り継ぎの改善を加えて、五つを比べてみました。

普通列車の対象を1,000人/日、特急を200人/日と仮定します。普通はモデル上の短縮の75%、特急は50%が目的地まで残るとしました。時間価値は45円/人分、年間365日、30年間、社会的割引率4%です。人数は、どの駅からどの駅まで乗るかを実際に調べた値ではなく、比較用の仮定です。

1 2km部分高速化
243万円
2 5km部分高速化
662万円
3 駅間約7.48km高速化
840万円
4 ケース3+交換待ち改善
1,004万円
5 ケース4+接続改善
1,825万円
ケース置いた改善1日で節約する時間
(人・分)
年間便益30年現在価値
1 2km高速化普通7.8秒、特急5.2秒の目的地早着約148人・分約243万円約0.42億円
2 5km高速化普通21.3秒、特急14.2秒の目的地早着約403人・分約662万円約1.14億円
3 約7.48km高速化普通26.7秒、特急19.9秒の目的地早着約511人・分約840万円約1.45億円
4 交換待ち改善ケース3+普通100人/日がさらに1分早着約611人・分約1,004万円約1.74億円
5 接続改善ケース4+別の100人/日がさらに5分早着約1,111人・分約1,825万円約3.16億円

「人・分」は、人数と短縮時間を掛けた単位です。100人が1分ずつ早く着けば100人・分、1,000人が0.1分ずつ早く着いても同じ100人・分になります。表の年間便益は、この合計に45円と365日を掛けています。

ケース1〜3は、改良する長さを変えた三つの選択肢です。ケース4は3に交換待ち改善を追加し、5は4に乗り継ぎ改善を追加しています。五つの金額を全部足す表ではありません。30年現在価値の読み方は、次の節で説明します。

ケース4・5の100人は、新しい利用者を追加した数字ではありません。最初に仮定した普通列車の1,000人のうち、100人は交換待ちが短くなり、別の100人は乗り継ぎがよくなる、という設定です。同じ人の同じ短縮時間を重ねて数えないよう、対象を分けています。

ケース1|2kmだけ速く走れると、年間約243万円

小さく試すケースです。普通の目的地早着は約7.8秒、特急は約5.2秒。年間便益は約243万円でした。2kmだけなら工事範囲は短く見えますが、加速してすぐ減速するため、120km/hの定速走行を長く続けられません。

ケース2|5kmへ広げると、年間約662万円

普通は約21.3秒、特急は約14.2秒早く着くと仮定すると、年間約662万円、30年現在価値約1.14億円です。速度向上だけを比べる三案の中では、2kmから5kmへ広げたときの便益増が比較的大きく出ました。

ケース3|約7.48kmの駅間全体なら、年間約840万円

原ノ町―鹿島の調査範囲約7.48kmを対象にします。普通約26.7秒、特急約19.9秒の早着で、年間約840万円。5kmからさらに約2.48km広げても、年間便益の増加は約178万円でした。駅へ停車する普通列車は最後に減速するため、改良区間を延ばした分だけ、120km/hで走れる時間が増えるわけではありません。

ケース4|100人の待ち時間を1分減らし、年間約1,004万円

ケース3に加え、普通利用者のうち100人/日が、交換待ちの改善でさらに目的地へ1分早く着くと仮定します。追加便益は年間約164万円、合計約1,004万円です。

260Mの鹿島8分停車を1分減らすという意味ではありません。短縮した分だけ別の駅で長く待てば便益は生じず、対向列車を遅らせればその損失を差し引く必要があります。ここでは他列車の到着を遅らせず、100人が目的地に1分早く着くダイヤを組めた場合を想定しています。

ケース5|別の100人が5分早く着けて、年間約1,825万円

ケース4に加え、別の100人/日が乗り継ぎ改善でさらに5分早く着くと仮定します。追加便益だけで年間約821万円、合計約1,825万円です。少人数でも分単位の改善があると、秒単位の高速化に近い、あるいは上回る便益になります。

ただし特定の接続を確認した数字ではありません。たとえば260Mは原ノ町20:40着で、いわき方面の最終普通690Mは20:14発です。今回の高速化だけでこの列車に乗り継げるわけではなく、26分以上と乗換時間を含む別のダイヤ変更が必要です。

年間662万円の便益の意味と、その受け手

時間短縮の価値と鉄道会社の収入の違い

時間便益は、利用者が節約した時間を社会的な価値として金額換算したものです。JR東日本の売上や利益ではありません。運賃が変わらなければ、利用者が21秒早く着いても鉄道会社へ662万円が入金されるわけではありません。

「1分45円は、どこから出てきたの?」という疑問もあると思います。これは全ケースを同じ条件で比べるため、この記事で採用した仮の単価です。国のマニュアルが常磐線の全利用者に一律45円を指定しているわけではありません。今回は利用目的ごとの違いまで調べていないので、共通の値を使いました。時間と人数が同じなら、この単価を変えた割合だけ便益も変わります。

公表されている利用者数を、そのまま使えない理由

JR東日本が公表する2024年度の平均通過人員は、いわき―原ノ町が1,792人/日、原ノ町―岩沼が4,072人/日です。これは旅客人キロを営業キロと営業日数で割った輸送密度です。原ノ町―鹿島の実人数でも、ある列車の乗車人数でもありません。

そこで5ケースでは、この公表値を直接使わず、普通1,000人、特急200人という比較用の人数を置きました。実際の評価では、列車別・乗車駅別・降車駅別の人数に、その利用者が本当に得る短縮時間を掛ける必要があります。

「30年で約1.14億円」の計算方法

国土交通省の鉄道プロジェクト評価マニュアルは2025年3月に一部変更され、社会的割引率は4%を適用しつつ、1%・2%を参考比較として併記できる整理になりました。この記事は4%を使っています。

将来得られる便益を現在の金額と比較するため、年4%で割り引いて換算します。30年間の係数は約17.292です。5kmケースなら、年間約662万円×17.292=約1.14億円。需要が20%少なければ、短縮時間が同じでも便益は20%減ります。

つまり、表の「年間便益」は毎年の効果、「30年現在価値」は将来分を今の金額に換算した合計です。30年は今回の計算期間で、線路が30年で使えなくなるという意味ではありません。また、人数や効果は毎年同じと仮定しています。人口や利用状況が変わる場合は、年ごとの予測に合わせた計算が必要になります。

確認済み
GISで抽出した線形、2026年9月8日の保存時刻表、260M・238Mなどの分単位の着発時刻、JR東日本の2024年度平均通過人員。
モデル計算
100→120km/h、加速度0.55m/s²、減速度0.65m/s²とした部分改良の短縮秒数。
想定
普通1,000人、特急200人、短縮残存率75%・50%、交換改善100人×1分、接続改善100人×5分、時間価値45円。
未確認
現行速度台帳、曲線・勾配・カント、駅の連動条件、踏切制御、実際の列車別・乗降駅別の利用人数、実施可能な改正ダイヤ。

120km/h走行を支える線路・車両・信号の条件

試算では速度の設定を変えて効果を比べましたが、実際に走らせるには、線路、車両、信号、踏切、運転方法を合わせて安全を確かめます。技術上の基準も「半径○mなら必ず○km/h」と一行で決める形ではなく、安全に走れる性能を求める構成が中心です。

法律鉄道事業法が、工事計画の認可、施設変更、完成検査などの手続きを定めます。施設を変える場合、内容に応じて認可・届出・検査が関係します。
国土交通省令「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」が、曲線、軌道、構造物、信号、踏切、車両、運転の安全性能を定めます。
告示・解釈基準告示は省令から委ねられた事項などを具体化します。解釈基準は、省令への適合を判断する標準的な方法を示した通達です。両者の位置づけは異なり、解釈基準によらない方法でも、客観的な検討で省令への適合を証明する道があります。
事業者の実施基準省令3条に基づき、鉄道事業者が自社の施設・車両・運転に合わせた詳細基準を定め、地方運輸局長へ届け出ます。
個別区間の設計実際の曲線、カント、レール、橋りょう、信号、車両性能、保守条件を照合し、その区間の運転速度と工事内容を決めます。

カーブの外側のレールを高くする「カント」

カントは、曲線の外側レールを内側より高くする仕組みです。カーブを走る車両に働く遠心力を受け持ち、乗り心地と安全性を確保します。省令14条は曲線半径を、15条はカントを、運転速度や車両性能と合わせて考えるよう求めています。

解釈基準には、標準的なカントを考える式として C=G×V²÷(127×R) が示されています。Cは左右のレールの高さの差、Gはレール間の幅(軌間)で、ともにmm。Vは平均速度(km/h)、Rは曲線半径(m)です。速度が上がると必要なカントは速度の二乗で増えます。ただし普通列車と特急では速度が違い、線路を分けるポイント(分岐器)の付近ではカントを十分に付けにくい場合もあります。この式一つで制限速度が決まるわけではありません。

レール・橋・架線の確認項目

省令23条は、軌道が荷重に耐え、安全な走行を妨げる変形を生じないことを求めます。24条は橋りょうや土工などの構造物について、列車荷重や衝撃による変位で安全を損なわないことを求めます。速度を上げると動的な影響や保守精度も検討対象になります。

電化区間では、架線の高さや左右の位置、屋根のパンタグラフが架線から安定して電気を取り込めるか、必要な電力を送れるかも確認します。「レールだけ交換すれば終わり」とは限りません。一方で、既存設備が必要性能を満たしていれば、大規模な全面改築が必ず必要という意味でもありません。必要工事は現物と設計条件の照合で決まります。

既存レールの利用可否と工事規模の関係

鉄道のレールには、1m当たりの質量で60kg、50kgN、40kgNなどの種類があります。一般には重いレールほど断面が大きく、列車荷重に対する余裕や保守面で有利ですが、レールの重さだけで最高速度が決まるわけではありません。まくらぎの本数、道床厚、路盤、ロングレール化、線形、列車本数なども一緒に見ます。

現行の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」23条は、軌道が予想される荷重に耐え、安全な走行を妨げる変形を生じないことを求めています。レール重量と速度を一対一で結び、「在来線で120km/hを超える場合は60kg」と定めた条文ではありません。国土交通省の解釈基準も、普通鉄道は「鉄道構造物等設計標準(軌道構造)」によるか、部材の応力、軌道の変形、長期安定性、座屈安定性を照査して安全性を確認する仕組みを示しています。

ここでいう「照査(しょうさ)」は、計算などによる安全確認です。繰り返し列車が通っても部材が壊れないか、線路の変形が進みすぎないか、温度上昇でレールが横に張り出さないかを確かめます。鉄道総研の2025年度鉄道設計技士試験・問2でも、50kgNレールと130km/hを条件に、繰り返し荷重による破壊を検討しています。ただし、限られた条件での計算問題であり、これだけで常磐線の運転可能性を判断することはできません。

今回の調査では、対象区間のレール規格を場所ごとに確認できる公表台帳は見つかりませんでした。JR東日本全体の集計や、別区間の過去の記録から、現在の対象区間の規格を決めつけることはできません。

既設レールを使えるか、交換が必要かは、JR東日本の実施基準と現地条件を照合して判断する必要があります。50kgNや40kgNの配置も未確認です。この記事で比べる最高速度は120km/hですが、実施可能性を確かめるには、レールの状態、まくらぎ、その下の砕石層である道床(どうしょう)などを調べ、車両の重さや通過量も含めて照査します。後半の工事費は、交換の要否が確定する前に置いた比較用の金額です。

速く走るための「止まれる距離」と「列車の間隔」

速く走れば、止まるために必要な距離も長くなります。省令69条は車両のブレーキ装置、103条は線路・車両・信号・列車防護などに応じた安全な速度、106条は非常制動距離を考えた列車防護を求めています。

単線で特に重要なのが「閉そく」です。省令では、一定区間を一つの列車に占有させ、同時に二つ以上の列車を入れない仕組みと定義されています。列車が駅間を早く抜ければ占有時間は短くなりますが、駅の進路が解放される時間、対向列車の位置、信号の制御まで揃わなければ、増発や待ち時間短縮にはつながりません。

高速化に合わせた踏切の警報時間の調整

省令62条は、列車の速度や鉄道・道路の交通量などを考慮して踏切保安設備を設ける考え方を示しています。列車が速くなると、踏切へ到達する時刻が変わります。警報開始点や制御方式が新しい速度に対応するか、道路側の安全と遮断時間を含めて確認します。

省令を読むと見えてくること
「120km/hは禁止されているか」だけを探すより、曲線・軌道・構造物・車両・信号・踏切・運転方法の組合せで安全を証明できるか、と考える方が実際の設計に近くなります。

新幹線が止まったとき、常磐線で運べる価値

常磐線には、東北新幹線や東北本線が不通となった際の代替経路という役割もあります。2021年の地震後には、JR東日本が常磐線の特急を仙台まで延長運転しました。これは常磐線経由の代替が実際に使われた例です。

では、「災害時に役立つ分」を加えたらどうなるでしょう。ここで比べたいのは、常磐線がある場合とない場合ではなく、改良する場合としない場合です。改良しなくても運べる分を含めてしまうと、今回の工事の効果を大きく数えてしまいます。地震の発生頻度に加え、常磐線も被災しないか、車両や乗務員を確保できるか、迂回する人がどれくらいいるかも関係します。

臨時・延長運転の仮定1日当たり代替需要向け座席枠7日間位置づけ
2往復1,920人回13,440人回2021年の公表例を参考にした比較仮定
4往復3,840人回26,880人回設備・運用整備後の検討目標
6往復5,760人回40,320人回拡張目標。運転可能性未確認

1列車600席、その80%を迂回する利用者へ割り当てる仮定です。「人回」は乗車1回を1と数え、同じ人が往復すれば2人回になります。座席枠は実際に運べた人数ではありません。4往復を運転でき、2往復との差となる1,920人回/日が他交通より60分早く、7日間利用できるなら、その追加時間便益は一度の支障で約3,629万円です。

この表では、改良しない場合でも2往復は運転できると仮定し、増便した分だけを追加効果として数えています。また、便益の計算では、迂回客向けに確保した座席枠が利用されると仮定しました。座席を用意しても空席が多ければ、その分だけ便益は小さくなります。「中央」は標準的な予測という意味ではなく、今回並べた三つの仮定の中間です。

30年間の便益を求めるには、こうした支障の発生頻度を仮定する必要があります。そこで「東北新幹線・東北本線側が使いにくく、常磐線側は使える支障」に限った発生頻度を、低位・中央・高位の3通りで仮定しました。

代替幹線便益のケース対象となる支障継続2往復からの増便追加座席枠/日他手段との差30年現在価値
低位10年に1回3日1往復960人回45分約0.10億円
中央5年に1回7日2往復1,920人回60分約1.25億円
高位2年に1回14日4往復3,840人回90分約18.82億円

計算は「追加座席枠×他手段との時間差×45円/人分×支障日数×年間発生回数」です。たとえば中央ケースは、一度当たり約3,629万円、年平均では約726万円。これを30年・割引率4%で現在価値にすると約1.25億円です。発生回数が少なくても、一度の支障が長く、運べる人数が多い高位ケースでは数字が大きくなります。

高位ケースは予測ではなく、B/Cが1を超える条件を探るために置いた上限寄りの想定です。2年に1回、14日間にわたる対象支障で、6往復を運転し、増便分の座席が埋まる必要があります。実際の運行費は差し引いていません。反対に、旅行中止の回避、貨物、道路混雑の軽減も入れていません。速度を上げただけで増発できるとも限らず、単線区間の交換設備、岩沼―仙台の共用区間、折返し、車両・乗務員が制約になります。

改良案の具体化に必要な調査

ここまで計算すると、「実際の線路はどうなっているのか」「この列車には何人乗っているのか」が知りたくなります。今回の仮定を確かめるために必要な情報を、表にまとめました。

必要な情報分かること記事のどの仮定を置き換えるか
区間別の速度制限と理由曲線、分岐器、構造物、踏切など、速度を決めている要因100→120km/hという一律の想定
レール種別・継目、まくらぎ、道床、線形、カント60kg・50kgN・40kgNの配置と、120km/h対応に必要な軌道工事QGIS上の候補線を実際の工事範囲へ変更
信号・閉そく・駅連動交換待ちを短縮できるか、同時進入できるかケース4の100人×1分
列車別・乗降駅別の利用人数誰が何秒・何分早くなるか普通1,000人、特急200人という比較値
接続先と利用人数乗り継ぎ改善で何人が何分早く着けるかケース5の100人×5分
全列車ダイヤ・車両・乗務員通常時と災害時に実際に運転できる本数交換改善、4・6往復の目標

鉄道事業法では、鉄道施設の変更は内容に応じて工事計画の認可や届出、完成後の検査につながります。したがって「地図で直線に見える」「計算では便益が出る」だけで事業化できるわけではありません。一方で、公開データの段階でも、調査すべき場所と便益が生まれる仕組みまでは整理できます。

想定工事費を含めた5ケースのB/C比較

B/Cは、便益(Benefit)を費用(Cost)で割った値です。1を上回れば、計算に入れた便益が費用を上回ります。ここでいうBとCは、ある年の金額をそのまま比べるのではなく、将来分を割り引いて基準年の価値にそろえた金額です。

B/C = 30年間の便益現在価値(B)÷ 総費用現在価値(C)

たとえばB/Cが0.24なら、計算した費用100円に対して、計上した便益は24円相当という読み方です。「鉄道会社が投資額の24%を運賃で回収できる」という意味ではありません。会社の収支と、利用者の時間短縮などを含む社会全体の費用対効果は、分けて考えます。

便利になる効果が分かったら、次は「工事にいくらかかるか」です。国のマニュアルでは、建設投資額に加え、供用後の維持改良費と再投資額も費用に含めます。今回は設計図も現地調査もないので、正確な工事費は出せません。そこで、次の費用を比較用の想定として置きました。

費用項目今回の想定使うケース読み方
120km/h対応の直接費1.0億円/単線km1〜5国交省調査にある130km/h化の軌道強化例を、比較の基準単価として借用
交換待ち改善の設備枠1.5億円4・5分岐器・信号・連動の部分改修を想定。交換設備一式の見積りではない
接続改善の準備枠0.1億円5ダイヤ設計、試運転、案内変更などを仮置き
代替幹線機能の追加設備枠5.0億円災害時便益を加える表全線の交換・信号・運用設備の追加枠。必要工事を網羅した見積りではない
共通の追加分設計・施工管理・予備費20%全ケース直接費へ上乗せ
維持・再投資直接費の1%/年、15年目に10%全ケース30年、割引率4%で現在価値化

1.0億円/単線kmは常磐線120km/h化の公表見積りではありません。国交省の「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査」に載る、最高130km/h化の路盤強化・PCまくらぎ化の例です。全区間を60kgレールへ交換する費用として置いたものでもありません。実際のレールが50kgNか40kgNか、現在のまま必要性能を満たせるかによって工事内容は変わり、線形、信号、踏切、橋りょうの状態でも実額は上下します。上の共通条件を現在価値へ直すと、総費用Cは直接費のおよそ1.428倍になります。

「単線km」は、線路1本の延長を数える単位です。同じ1kmの区間でも、上下2本の線路を両方改良するなら2単線kmになります。また、下の表の「直接費」は工事などに直接かかる費用の想定、「総費用C」は設計・施工管理・予備費や将来の維持・再投資も含めた現在価値です。B/Cでは後者を使っています。

ケース便益B
30年現在価値
直接費の想定総費用C
30年現在価値
B/C純現在価値
B−C
1 2km高速化約0.42億円約2.00億円約2.86億円0.15約−2.44億円
2 5km高速化約1.14億円約5.00億円約7.14億円0.16約−6.00億円
3 約7.48km高速化約1.45億円約7.48億円約10.69億円0.14約−9.24億円
4 3+交換待ち改善約1.74億円約8.98億円約12.83億円0.14約−11.10億円
5 4+乗り継ぎ改善約3.16億円約9.08億円約12.98億円0.24約−9.82億円

平常時の時間便益だけでは、5ケースともB/Cは1を下回りました。最大でもケース5の0.24です。今回の利用人数と短縮時間に対して、1.0億円/kmの工事を単独で行う想定なら、高速化だけで費用を上回るのは難しい。これがこの試算の率直な結果です。

代替幹線の便益と、B/Cが1を超える条件

次に、ケース5へ代替幹線機能の追加設備枠5.0億円を足します。総費用Cは約20.12億円です。そこへ前章の災害時便益を加えると、次のようになります。

代替幹線便益のケース災害時便益平常時を含む総便益B総費用CB/C読み方
低位約0.10億円約3.26億円約20.12億円0.16発生頻度も輸送規模も控えめ
中央約1.25億円約4.41億円約20.12億円0.225年に1回、7日、2往復増を仮定
高位約18.82億円約21.98億円約20.12億円1.092年に1回、14日、4往復増の強い想定

計算上、B/Cが1を超えるのは高位ケースだけです。中央ケースでは0.22にとどまります。B/C=1に必要な災害時便益は、30年現在価値で約16.96億円、年平均で約9,809万円です。中央ケースと同じ一度の支障で約3,629万円の追加便益が生じるなら、年2.7回ほど起きなければ届きません。高位ケースと同じ一度当たり約2.18億円なら、約2.2年に1回が境目です。

したがって「バイパス路線としての便益を入れれば、自然に1を超える」とまでは言えません。長期の支障がかなり頻繁に起き、常磐線が同時被災せず、6往復を運転でき、増便分の需要があり、他手段より90分早いという条件がそろったとき、今回の簡易計算は1.09になります。しかも臨時列車の運行費は未算入なので、正式なB/Cはこれより下がる可能性があります。一方、旅行中止の回避や貨物輸送、道路混雑の軽減を適切に測れれば、便益が増える可能性もあります。

数字から見た現実性

改善の方向今回の数字から読めること現実性を確かめる鍵
平常時の5ケースB/Cは0.14〜0.24。今回の費用想定では、どのケースも1を下回る実際の工事数量、利用者数、目的地まで残る短縮時間、他列車への不利益
交換・接続改善秒単位の高速化より便益を増やしやすいが、設備費を入れたケース4もB/Cは0.14ダイヤ変更だけで可能か、分岐器・信号・交換設備の工事が必要か
代替幹線・中央災害時便益を約1.25億円加えてもB/Cは0.22対象支障の発生頻度、継続日数、常磐線が使える確率、増発需要
代替幹線・高位強い条件を重ねるとB/Cは1.09。ただし運行費控除前6往復の全線ダイヤ、車両・乗務員、岩沼―仙台の容量、臨時運行費

今回の高速化の試算でB/Cが低い主な理由は、短縮時間に対して想定工事費が大きいことです。短い区間で100km/hから120km/hへ上げても、目的地への早着は数秒〜数十秒なのに対し、工事費は改良区間の長さに応じてかかると想定しています。曲線や踏切、信号、橋りょうまで広く改修する必要があれば、今回の想定より費用が増えることもあります。

交換待ちと乗り継ぎは、分単位の効果を生みやすいのが強みです。時刻の組み替えや信号の扱いで改善できれば、施設工事より小さな費用で便益を得られる可能性があります。一方、一つの列車を早めた結果、対向列車や接続先を遅らせれば、その不利益をBから差し引かなければなりません。ケース4・5では便益が増えましたが、想定費用を含めるとB/Cは1未満です。便益の増え方と、費用に見合うかは、それぞれ確かめたい点です。

代替幹線として評価するなら、平常時の便利さとは別の調査が要ります。過去の輸送障害から「東北側が止まり、常磐線は使える日」を数え、当日の迂回需要と実際に運転できた本数を確かめる。そのうえで、改良する場合としない場合を比べ、追加で必要になる設備や運行の費用と、追加で生まれる便益をそろえて計算する必要があります。ここまでそろって初めて、高位1.09が現実に近いのか、中央0.22に近いのかを判断できます。

この試算から言えること
今回の人数・短縮時間・費用を置くと、平常時の5ケースは便益が費用に届きません。代替輸送を含めて1を超えたのも、上限寄りの条件です。ただし、これは原ノ町―鹿島の改善例と、仮の追加設備・代替輸送条件による比較であり、常磐線全体や国の調査事業のB/Cではありません。実際の事業を考えるには、未計上の効果と費用、地域で必要とされる交通の役割も合わせて検討する必要があります。

B/Cが低くても、常磐線のアクセス改善を進めたい理由

今回の仮定では、平常時の5ケースのB/Cは0.14〜0.24でした。代替幹線機能を加えた中央ケースも0.22です。この条件で計算する限り、便益は費用に届かない。その結果は、そのまま受け止めたいと思います。それでも私は、常磐線のアクセス改善を進めるべきだと考えています。浜通りで暮らす選択肢を広げることと、東北への移動を複数の経路で支えることには、取り組む意味があるからです。

ただ、アクセス改善を支持することと、今回置いた120km/h化や設備投資が最善だと言うことは別です。今回の数字からは、同じ工事をそのまま実施すべきだとは言えません。何を実現したいのかを先に定めて、速度、交換待ち、接続、本数、駅から先の交通を組み合わせた案を考えたいところです。

たとえば「浪江で夕方まで仕事をしても、その日のうちに無理なく仙台へ帰れる」。そんな移動が必要なら、最高速度の数字だけでなく、仕事が終わる時刻と列車の発車時刻、乗り継ぎ、最終列車まで見る必要があります。利用者が必要とする到着・出発時刻を具体的に決めることで、ダイヤ変更や設備改良の内容を検討できます。

まだ乗っていない人の需要と、その見込み方

ここで気になるのが、「今は利用者が少なくても、便利になれば利用する人が増えるのでは」という点です。B/Cは、新しい需要を扱えない仕組みではありません。将来の利用を予測して評価することはできます。ただし、この記事の簡易計算では、利用者数を仮置きしたまま時間短縮を積み上げています。便利になることで新たに出かける人や、住む場所・働く場所を変える人までは計算していません。まず、この試算の限界と、B/Cそのものの限界を分けておきたいと思います。

難しいのは、その「増える人」をどう見込むかです。F-REIに関わる往来のうち、鉄道を改良しなくても発生する移動は、改良しない場合にも見込む必要があります。その人たちの移動が楽になる効果と、鉄道が便利になったから追加で生まれる移動を比べていく。研究拠点が生む往来のすべてを、鉄道改良の成果にしてしまうと、効果を大きく見積もることになります。

そして、列車を速くするだけで人が増えるとは限りません。駅から研究施設や職場へ行けること、帰りの便があること、家族の通学や買い物が成り立つこと。こうした条件がそろって、初めて暮らす場所の候補になる人もいるはずです。利用者を増やすには、住宅整備や雇用、バスなどの計画に合わせて、鉄道の改善内容と実施時期を検討する必要があります。将来人口の予測だけでは、誰がどのような目的で鉄道を利用するのかまでは分かりません。

復興で取り戻したい、暮らしの選択肢

復興の視点で私が重視したいのは、どれだけ人が乗るかに加えて、どんな生活ができるようになるかです。地元に住みながら別の町へ通学できる。車を運転しなくても通院できる。離れて暮らす家族を訪ね、日帰りできる。人口や乗車人数の合計だけでは、それぞれの人にとっての切実さまでは読み取れません。

ここでいう復興は、元の場所へ戻ることを誰かに求める意味ではありません。戻りたい人、今の場所で暮らし続けたい人、新しく浜通りで働きたい人が、それぞれの生活を選べるようにすることです。F-REIへのアクセスも、そこで働く人の便利さを、沿線で暮らす人の便利さへどうつなげられるか。その視点があれば、研究拠点のための列車と地域の生活を支える列車を、一緒に考えられます。

国交省の2023年の評価手法マニュアル改訂委員会資料でも、公平性や地域社会、まちづくりなど、貨幣換算にとどまらない評価軸が議論されています。これは改訂に向けた議論であり、未計上の効果を自由にBへ加えてよいという意味ではありません。金額で比較できる効果に加え、暮らしの選択肢を広げるという復興政策上の意義も判断材料になります。

たとえば、通院可能な時間帯が広がったことを評価するなら、診療開始までに到着できる地域や、帰りの待ち時間を示せます。人口が増えた場合も、他地域からの転居と、国全体で新たに生まれた効果は区別が必要です。地元の売上や地価の上昇を、時間短縮の便益にそのまま足せば、同じ効果を重ねて数えるおそれもあります。復興への期待が大きいからこそ、何が良くなったのかを具体的に示したいところです。

災害時に常磐線で代替輸送を行うための条件

国土全体から見ると、常磐線には、東北方面への代替輸送を担う役割も考えられます。ただし、線路がつながっているだけでは、災害時に必要な輸送力を確保できるとは限りません。車両と乗務員を確保でき、既存の列車の合間に臨時列車を運転でき、迂回する人のための座席を用意できる。こうした運行体制を整える必要があります。

今回、B/Cが1を超えたのは、長期の支障が2年に1回起こるなど、強い条件を重ねた高位ケースでした。「バイパスの価値を入れれば1を超える」とは、まだ言えません。常磐線も同時に使えなくなる災害や、道路・航空などで代替できる場合を含めて、鉄道を改良することで、移動できる人がどれだけ増え、所要時間がどれだけ短くなるのかを確かめる必要があります。その備えを国全体のために持つなら、沿線だけで負担を引き受けるのが妥当かという点も、政策として議論したいと思います。

概算要求に盛り込まれた調査への期待

国の調査で特に見たいのは、F-REIへ通う人も含め、どの列車をどこからどこまで使うか、現行速度を決めている設備条件、夜ノ森―浪江を含む交換設備の効果、東京・いわき・浪江・原ノ町・仙台の接続、そして非常時に追加運転できる本数です。ここが分かれば、この記事で置いた仮定を一つずつ実データへ置き換えられます。

その先では、改善前に目標を決め、実施後にも確かめてほしいと思います。利用者数だけでなく、仕事や授業に間に合う便ができたか、帰りの待ち時間が減ったか、駅から先まで移動できたか。需要が想定ほど増えなかった場合も、運行時間帯や乗り継ぎ、駅へのアクセスに不便がないかを調べ、追加の改善を検討できます。

最初は「列車を速くすれば便利になるのでは」と思っていました。調べてみると、駅で何分待つか、次の列車に間に合うかも、ずいぶん大事でした。朝の一本に間に合う。帰りに長く待たなくて済む。浜通りに住みながら、働く場所や学ぶ場所を選べる。私が常磐線に期待したいのは、そんな便利さです。今回の試算ではB/Cは低く、費用の課題も残りました。国の調査で実際の利用状況や設備条件が分かったら、どんな改善ができそうか、また考えてみたいと思います。

出典と計算条件

  1. 国土交通省鉄道局「令和9年度 鉄道局関係予算概算要求概要」。在来線の高速化は4頁、常磐線アクセス改善調査事業は21頁。後者は復興庁予算・国費43百万円。
  2. 復興庁「牧野復興大臣記者会見録[令和8年9月1日]」。常磐線の増発を含むアクセス改善に関する質疑を参照。
  3. 国土交通省「国土数値情報 鉄道データ」。路線・駅の位置情報を使用。速度・曲線・信号等の属性は含まれません。
  4. JR東日本「路線別ご利用状況」。2024年度平均通過人員。
  5. JR東日本 260M列車詳細、238M列車詳細、特急ひたち21号列車詳細。2026年9月8日基準で保存・照合。
  6. e-Gov法令検索「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」。3条、14・15条、23・24条、62条、69条、103・105・106条等を参照。
  7. 国土交通省「鉄道の技術基準の整備」、同「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準」。
  8. e-Gov法令検索「鉄道事業法」。8〜12条の工事・施設変更・検査手続きを参照。
  9. 国土交通省「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル(2012年改訂版、2025年3月一部変更)」。第2編5.3.2.5のリダンダンシー評価例、5.4の費用便益分析を参照。
  10. JR東日本「地震に伴う列車の延長運転について」。2021年の常磐線経由延長運転例。
  11. 国土交通省「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査 令和3年度調査結果」。最高130km/h化の軌道強化1億円/単線km等を掲載。今回の1.0億円/kmは、この例を比較用に借用したもので、常磐線120km/h化の見積りではありません。
  12. JR東日本「会社要覧2019-2020 線路・土木構造物」。レール重量別の本線軌道延長を参照。全社集計であり、常磐線の区間別レール種別は分かりません。
  13. 運輸安全委員会「日本貨物鉄道株式会社 常磐線 浜吉田駅〜山下駅間 列車脱線事故」。事故地点の50kgNレール、PCまくらぎ、砕石道床を確認。2011年当時の別区間であり、日立―原ノ町のレール種別の根拠には使用していません。
  14. 鉄道総合技術研究所「2025年度 鉄道設計技士試験 専門試験Ⅱ(鉄道土木)」。鉄道構造物等設計標準に基づくレール疲労照査の設計条件として、在来線・50kgNレール・走行速度130km/hを掲載。特定路線の運転認可を示す資料ではありません。
計算条件:改良前の仮定100km/h、改良区間120km/h、加速度0.55m/s²、減速度0.65m/s²。普通列車は停止→停止、特急は停止→通過。普通1,000人/日、特急200人/日、到着まで残る割合75%・50%、時間価値45円/人分、365日、30年、割引率4%。ケース4は普通1,000人の内数100人へ追加1分、ケース5は別の内数100人へ追加5分。費用は120km/h対応1.0億円/単線km、交換待ち改善1.5億円、接続改善0.1億円、代替幹線追加設備5.0億円を直接費として仮置き。設計・施工管理・予備費20%、追加維持費1%/年、15年目の再投資10%を加えました。代替幹線便益は低位・中央・高位で、対象支障の頻度、継続日数、追加座席枠、時間差を変えています。誘発需要、他列車への不利益、臨時列車の運行費、旅行中止回避、貨物、道路混雑の変化は未計上です。すべて比較用の仮定で、正式な工事費見積りや事業評価ではありません。
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この記事を書いた人

▷一級建築士,建築基準適合判定資格者(建築主事試験),宅地建物取引士,建築物省エネ適合性判定員など
▷建築関連法規や都市計画法規などに関することや、都市計画・公共交通・住宅政策などが得意分野です。
▷コンサルタント依頼はこちらから(https://visasq.co.jp)

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