先日(令和6年10月29日:東日本旅客鉄道株式会社)、JR東日本から2023年度分(2023年4月〜2024年3月)の経営情報が公表されました。公表路線は36路線72区間で前年度よりも2路線10区間が増えています。
JR東日本によると、2022年度までは、2019年度の実績において平均通過人員が 2,000人/日未満の線区を開示対象としていたが、今回からは2023年度において平均通過人員が 2,000人/日未満の路線を対象としたとのこと。
JR常磐線については、2019年度時点では震災の影響を受けて不通となっていた区間があったために2019年度実績は公表されていませんでしたが、2020年度からは全線開通に伴い平均通過人数が公表されています。
いわき〜原ノ町間は営業係数が低い(公表路線区間中2位)
まず、平均通過人員ですが、2023年度実績は1,731人/日でした。
3年前となる2020年度は1,286人/日でしたので着実に戻してきているものの、公表対象である平均通過人員2,000人/日未満となっているために「いわき〜原ノ町」も公表されている形です。
今回公表された36路線72 区間のうち、2番目に営業係数が低いのが「いわき〜原ノ町」でした。
*営業係数(円):営業費用を運輸収入で割り、100をかけた数値。100円の運輸収入を得るのに要した営業費用を表す指標。
順位 (営業係数) | 路線・区間 | 運輸収入 (百万円) | 営業係数 (円) | 平均通過人員 (人/日) |
---|---|---|---|---|
1 | 磐越東線・小野新町~郡山 | 249 | 503 | 1,896 |
2 | 常磐線・いわき~原ノ町 | 719 | 534 | 1,731 |
3 | 只見線・会津若松〜会津坂下 | 85 | 618 | 987 |
4 | 羽越本線・羽後本荘~秋田 | 323 | 673 | 1,943 |
5 | 羽越本線・鶴岡〜酒田 | 263 | 735 | 1,736 |
↓ワースト | ||||
1 | 久留里線・久留里~上総亀山 | 1 | 13,580 | 64 |
2 | 津軽線・中小国~三厩 | 2 | 13,520 | 61 |
3 | 陸奥東線・鳴子温泉~最上 | 3 | 13,465 | 51 |
ここでいう営業係数は100円の運賃収入を得るために要した費用です。
いわき〜原ノ町間(77.5km)の534円というのはJR東日本の赤字路線の中でも低い路線に分類されます。また、JR常磐線の特徴である特急料の収入があるため運輸収入が他路線よりも高い7.19億円となっています。
一方で、営業キロが77.5kmという区間でもあるため、営業費用が38.43億円と比較的大きいのも特徴です。
いわき〜原ノ町間の駅で利用者数が多い駅は?
いわき〜原ノ町間の営業キロは77.5kmあります。
いわき駅から2駅先の四ツ倉駅以北は単線(広野-木戸、大野-双葉間は複線)となっており、いわき〜原ノ町間は16駅あります。このうち、主要駅は、四ツ倉駅(いわき市)や広野駅(広野町,震災復興の過程で拠点化)、富岡駅、大野駅、双葉駅、浪江駅、小高駅となります。
駅名 | 市町村 | 2010年度 (震災前) | 2023年度 |
---|---|---|---|
四ツ倉駅 | いわき市 | 806 | 516 |
広野駅 | 双葉郡広野町 | 336 | 2020年度:456 |
富岡駅 | 双葉郡富岡町 | 474 | 2018年度:225 |
大野駅 | 双葉郡大熊町 | 616 | 無人化 |
双葉駅 | 双葉郡双葉町 | 542 | 無人化 |
浪江駅 | 双葉郡浪江町 | 734 | 2018年度:24 |
小高駅 | 南相馬市 | 811 | 2018年度:493 |
震災前の利用状況からみると、四ツ倉駅(いわき市四倉町)や、大野駅(大熊町)、浪江駅(浪江町)、小高駅(南相馬市小高区)が主要駅となっています。
黒字化するには?
いわき〜原ノ町間の駅で黒字化するために簡単に試算すると、平均通過人員として8,000〜9,000人/日が必要となります。
この水準は、震災前の水準(2007年度:4,206人/日)でも満たないため、完全な赤字解消を行うには、営業費用を抑えつつ、現在の運行本数を維持しながら利用者数を増加させたり、企画列車など、さまざまな取り組みが必要となります。
2020年3月の全線開通以降、利用者は戻りつつありますが、これまで以上に戻すための取り組み(いわき市沿岸北部+双葉郡への移住、雇用の受け皿、二地域居住地など)が求めれます。
黒字化は大切?
日本では、公共交通に対しては独立採算であることを要求してきた歴史が長いです。
大都市圏への人口集中によって一部地域では鉄道や路線バスなどは独立採算を維持できていましたが、世界的に見ればかなり稀です。人の移動という社会生活の中で根幹の機能の一つを担っているものの、日本においての公共交通は「公共」ではなく「準公共財」として、採算性が求められています。
JR常磐線の場合、東北新幹線や東北本線のバイパス路線としての役割があるため、路線として維持を続けることは社会的な役割が大きく、その価値は高いです。このため、廃線という流れになることはまずないとは思いますが、利用者が減少すれば利便性が低下する可能性は高いです。
一度利便性が低下したり一部区間でも廃線となれば二度と元に戻ることはありません。気づいたときには、これまで以上に暮らしにくい市街地が形成されている可能性が高くなります。
電車を利用してみよう
まずは日常生活の中で、週に1回でも鉄道を利用したライフスタイルを実施してみませんか?一度利用してみると普段の日常生活において得られなかった気づきがあるかもしれません。
時間がゆったりと流れて自家用車の移動では得られなかった体験を得られるはずです。
一人一人が自分ごととして、週に1回でも鉄道を利用した生活を営んでみることで少しづつ変化していくはずです。